ヨハネス・ブラームス
(独: Johannes Brahms、1833年5月7日 - 1897年4月3日)
ブラームス 交響曲第 1番 ハ短調 作品 68
この交響曲が作曲された当時は、ベートーヴェンの最後の交響曲(第9番:1824年)の完成からわずかであった。
ブラームスはベートーヴェンを尊敬しており、それを超える交響曲を作ることになかなか意味を見出せず、作曲を始めても
プレッシャーとなり、約 20年にわたって試行錯誤を繰り返した結果、この最初の交響曲が完成したのは 1876年である。
この時ブラームスは 43歳になっており、ブラームスの作曲人生は大器晩成型であった。
その中で完成したこの交響曲第 1番は、尊敬するベートーヴェンの交響曲の中でも同じく短調である第 5,9交響曲と類似点も見受けられ、「第10交響曲」といわれることもしばしばである。
しかしその中でもブラームスは、後に「新古典主義」と呼ばれる個性を発揮している。この交響曲の一つのカギとなるのは「半音階の進行」であり、上昇形、下降形ともにその中に見え隠れするエネルギーの高まりが表され、どの楽章にも幾度となく登場する。
第1楽章 Un poco sostenuto – Allegro
冒頭からいきなりティンパニをはじめとした低音楽器の支配の中で木管楽器・弦楽器の上昇形の半音階による憧れに満ちた、訴えかけるような序奏でこの曲は幕を開ける。
序奏は古典派音楽によくみられた形式であるが、ブラームスの 4つの交響曲では唯一であり、本日お届けするもう 1つの交響曲の第 4番には存在しない。
この序奏を抜けると、テンポは加速し、展開部へと突入する。展開部でも半音階は随所に登場し、このエネルギーの高まりと短調の雰囲気、そして間をつなぐように登場する繊細なメロディーにより、楽章を通して何かへの欲求と満たされないもどかしさが感じられる。
これはもしかすると、ブラームス自身の作曲家としての成功と、尊敬するベートーヴェンへの挑戦の難しさが表れているのかもしれない。
第2楽章 Andante sostenuto
この楽章は第 1楽章から変わり、楽章を通しての調性は長調となる。
しかし、冒頭 2小節の暖かさのある上昇音形は、はやくも次の小節で雲がかかったように半音下がった音で表現され短調のような様相となる。
その後もこの曲のカギである半音階によってエネルギーが高まって再び暖かさが戻るも雲がかるといった繰り返しとなる。
途中にはオーボエによる、聴いていると感情を揺さぶられるような叙情的なメロディーもあり、緩徐楽章ならではの人間らしさを感じることができる。
中間部でも半音階を用いた展開がされ、落ち着いた雰囲気の中でもどこか不安を感じるような雰囲気になる。
その後の冒頭の再現部の際にも安心感の中に半音階のどこか不安な雰囲気が残るが、最後はヴァイオリンソロを抜けて夢の
中に入っていくように終止を迎える。
第3楽章 Un poco Allegretto e grazioso
訴えかける第 1 楽章、静かな感動の第 2楽章に続くこの第 3楽章では、それまでの時代に多かったメヌエットやスケルツォとは異なり、ブラームスの得意とするインテルメッツォのような形式である。
曲調もクラリネットの伸びやかなソロに始まり、途中に表れる中間部では「白昼に踊る幽霊の踊り」とも評されるように、楽章を通して穏やかであり、前楽章までの悲愴感からは解放された安堵感すら感じられるのではないだろうか。
第4楽章 Adagio piu Andante - Allegro non troppo,ma con brio
3つの楽章を抜けたどり着いた第 4楽章は、第 3楽章の雰囲気から再び第 1楽章冒頭を思い出させるような半音階を伴う、訴えかけるような序奏から始まり、その後も混とんとした世界観となる。
流れる悲愴感を打ち砕く突然の雷鳴のようなティンパニの打撃とともに静まりかえり、そこへアルプスのように雄大なホルンのメロディー、それに続くトロンボーンを中心とした荘厳なコラールが登場する。
これが終始すると弦楽器のユニゾンメロディーがアレグロで呈示される。
この主題はベートーヴェンの第 9 交響曲の合唱による主題に似た部分があり、ここにもブラームスのベートーヴェンへの尊敬の念が隠れているといえる。
この主題が管楽器へと移り、前半の楽章での苦難を乗り越えた喜びと希望が沸き上がるようにオーケストラ全体で幅を増し、強奏となる。
この歓喜に満ちたアレグロは展開、再帰を経ていよいよコーダへと突入する。
コーダでは沸き上がった喜びは最高潮へと達し、止められぬ勢いとともに駆け抜けるように終結へと向かう。
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