ブラームス交響曲第4番の解説

 ヨハネス・ブラームス

(独: Johannes Brahms、1833年5月7日 - 1897年4月3日)

ブラームス 交響曲第4番 ホ短調 作品 98

 

ブラームスにとって最後の交響曲となったこの作品は、交響曲第3番完成の翌年1884年から1885年にかけて作曲された。

 

第2楽章でフリギア旋法を用いたり、終楽章にはバロック時代の変奏曲形式であるシャコンヌを用いたりするなど、擬古的な手法を多様している。ブラームス自身も、「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と述べているほど、ブラームスらしさという点で筆頭に挙げられる曲である。

第1楽章 Allegro con brio


アウフタクトで、哀愁を帯びた音楽がヴァイオリンによってはじまる。

三度下降、六度上昇の連続という動機から成り立ち、哀切な表情を湛えている。(次図)

それがロ短調へ推移してロマンチックな緊張感を帯びていくと、突如、管楽器の三連音を含む楽句によって断ち切られる。

 

この楽句がこの後、第 1主題と並んで重要な動機となり、続いて歌われるチェロとホルンによるロ短調の印象的な旋律もすぐこの三連音の動機へと移行する。

 

提示部は、4つの交響曲中ただひとつ繰り返されない。そのためか展開部は第 1主題が原型のままで始まる。

 

展開部で最初に扱われるのは第 1主題だが、やがて三連音動機も加わる。小結尾では三連音の動機を繰り返しながら再び悲劇的な高まりを強め、第 1主題のカノン風強奏を迎えて、コーダに入る。

 

コーダはほぼ第 1主題提示部の強奏変奏の形で、そのまま悲劇的に終結する。

終始は、サブドミナント(Ⅳ)からトニカ(Ⅰ)に移行するプラガル終止(アーメン終止)を採用している。

第2楽章 Andante moderato


ホルンが鐘の音を模したような動機を吹き、それに続いて木管群も同じ動機を奏でる。これは、ホ音を中心とするフリギア旋法である。

弦がピチカートを刻む上に、この動機に基づく第1主題が木管で奏される。

 

ヴァイオリンが第1主題を変奏すると、三連音の動機でいったん盛り上がり、静まったところでチェロがロ長調の第2主題を歌う。単純な旋律ではあるが、弦楽器の各パートが対位法的に絡み、非常に美しい。

 

再現部はより劇的に変化し、第2主題の再現は、8声部(第 1・第 2ヴァイオリンとヴィオラがディヴィジする)に分かれた弦楽合奏による重厚なものとなる。最後にフリギア旋法によるホルン主題が還ってきて締めくくられる。

第3楽章 Allegro giocoso


過去3曲の交響曲の第3楽章で、ブラームスは間奏曲風の比較的穏やかな音楽を用いてきたが、第4番では初めてスケルツォ的な楽章とした。(しかし、3拍子系が多い通常のスケルツォとは異なり、4分の2拍子である。)

 

冒頭、第 1主題が豪快に奏される。一連の動機が次々に示され、快活な印象を与える。ヴァイオリンによる第 2主題は

ト長調、やや落ち着いた表情のものである。

 

展開部では第 1主題を扱い、トライアングルが活躍する。ホルンが嬰ハ長調でこの主題を変奏し、穏やかになるが、突如、第 1主題の途中から回帰して再現部となる。

 

コーダでは、ティンパニの連打の中を各楽器が第 1主題の動機を掛け合い、大きな振幅で最高潮に達する。

第4楽章 Allegro energico e passionato


バスの不変主題の上に、自由に和音と旋律を重ねるシャコンヌ(変奏曲)。管楽器で提示されるシャコンヌ主題は8小節間あり、バッハのカンタータから着想されたといわれる。楽章全体はこの主題と30の変奏及びコーダからなる。

1.シャコンヌ主題

主音から出発して属音まで6つ上昇、オクターブ下降して主音に戻るという、E-F♯-G-A-A♯-B-B-Eの8つの音符からなる。

注意すべきこととして、シャコンヌ(パッサカリア)の通例とは異なり、旋律主題がバスではなく高音域に置かれている。最後の和音は長調となるピカルディ―終止。

 

2.提示部(第 1~15 変奏)

・第 1主題相当部(第 1~9変奏)

・経過部(第 10、11変奏)

・第 2主題相当部(第12~15変奏)ここでは3分の2拍子に変わり、テンポが半分に遅くなる。第 12変奏で印象的なフルート・ソロが聴かれる。

 

3.展開部(第 16~23 変奏)

第 16変奏で冒頭のシャコンヌ主題が再現し、ここから後半部に入る。

 

4.再現部(第 24~30 変奏)

第 24変奏から第 26変奏までは、第 1変奏から第 3変奏までの再現で、より劇的に奏される。第 29変奏及び第 30変奏は、下降三度音程の連続によって、第 1楽章第 1主題が暗示される。

 

5.コーダ

Piu allegro に速度を速め、さらに緊張感を高めてⅤ→Ⅰの劇的なカデンツで終結を告げる。